著作権と他の知的財産権との関係
著作権と商標権
ロゴ、図形、イラスト、キャラクターなどは、商品やサービスの出所を示す標識として商標権の対象となる一方、創作性のある表現として著作権の対象となる場合があります。
商標権による保護は、原則として登録された商標と、その指定商品または指定サービスとの関係で判断されます。そのため、商標がまだ登録されていない場合や、第三者による使用が登録商標の指定商品・サービスの範囲から外れる場合には、商標権による対応が難しくなることがあります。
これに対し、ロゴやキャラクターなどに著作物としての創作性があり、第三者がその表現を複製または改変して使用した場合には、商標登録の有無や商品・サービスの区分とは別に、著作権による保護を主張できる可能性があります。著作権は、商品やサービスの出所表示ではなく、創作的な表現の無断利用を問題とするためです。
フィリピン最高裁判所:Mr. Gulaman事件
フィリピン最高裁判所のMr. Gulaman事件では、ゼリーパウダーの商品包装に使用されていた「Mr. Gulaman」の名称およびロゴデザインについて、先に著作権登録を受けていた企業と、後から類似する商標登録を取得した者との間で争いが生じました。
この事件では、著作権登録だけを理由として商標権が認められたわけではありません。しかし、先行する著作権登録証明書、著作権の譲渡証書、商品包装および販売資料が、ロゴの創作者、権利の承継および商標としての先行使用を示す証拠として用いられました。その結果、後発の類似商標の登録は取り消されました。フィリピン最高裁判所も、著作権と商標権は異なる権利であるとしつつ、先行する著作権登録が、ロゴデザインの由来や先行使用を裏付ける証拠となり得ることを認めています。
実務上のポイント
この事例は、著作権登録が商標登録の代わりになることを意味するものではありません。しかし、商標が未登録である期間や、商標権の指定商品・サービスの範囲から外れる使用についても、対象となるロゴや図形に十分な創作性があり、第三者による依拠と複製が認められる場合には、著作権が補完的な保護手段となる可能性があります。
一方、単なる文字列、一般的な書体、ありふれた図形などは、著作物として必要な創作性を欠く場合があります。また、著作権は独自に創作された類似表現まで排除するものではありません。したがって、名称やロゴをブランドとして継続的かつ安定的に保護するためには、商標登録を行うことが基本となります。
著作権と意匠権
フィリピンでは、製品のデザインについて、意匠権と著作権の双方による保護を検討できる場合があります。
- 意匠権: 登録された製品の外観を独占的に保護する権利です。
- 著作権: 製品に含まれる独創的な装飾、造形、模様、イラストその他の創作的な表現を、無断複製や翻案から保護します。
両者は保護の成立要件や権利の効果が異なるため、製品デザインについて意匠登録を行うことを基本としながら、著作権による保護を併せて検討することにより、より幅広い保護が可能となる場合があります。
フィリピン知的財産法における応用美術の保護
フィリピン知的財産法は、工業製品の独創的な装飾デザインまたは模型について、工業意匠として登録可能であるか否かを問わず、著作権の保護対象となり得ることを明文で規定しています。
同法第172.1(h)条は、著作権の保護対象として、次のものを掲げています。
“Original ornamental designs or models for articles of manufacture, whether or not registrable as an industrial design, and other works of applied art.”
すなわち、「工業製品の独創的な装飾デザインまたは模型であって、工業意匠として登録可能であるか否かを問わないもの、およびその他の応用美術」が、著作権の保護対象となり得ます。
さらに、同法第171.10条は、「応用美術(work of applied art)」について、次のように定義しています。
“A work of applied art is an artistic creation with utilitarian functions or incorporated in a useful article, whether made by hand or produced on an industrial scale.”
すなわち、応用美術とは、「実用的機能を有する芸術的創作物、または実用品に組み込まれた芸術的創作物であり、手作業によるものか工業的に量産されるものかを問わないもの」をいいます。
したがって、フィリピンでは、製品が工業的に量産される実用品であることや、工業意匠として登録可能であることを理由として、当然に著作権の保護対象から除外されるものではありません。
家具、文具、照明器具、食器、生活用品、パッケージなどについても、独創的な装飾、造形、模様、イラストその他の芸術的表現を有する場合には、応用美術として著作権による保護を受ける可能性があります。
日本の著作権法との相違
この点は、日本の著作権法とは大きく異なります。
日本の著作権法は、「美術の著作物には、美術工芸品を含むものとする」と規定するにとどまり、フィリピン法のように、応用美術や工業的に量産される実用品に組み込まれた芸術的創作物を、著作権の保護対象として明示していません。
日本でも、博多人形のように、量産される作品について著作物性が認められた裁判例があります。また、家具その他の実用品についても、著作物性が認められる可能性が完全に排除されているわけではありません。
一方、日本では、家具、遊具、文具その他の実用品について著作物性が否定された裁判例もあり、応用美術が著作権の保護対象となるかは、個々のデザインの創作性、美術性および実用的機能との関係に基づいて判断されています。
これに対し、フィリピン法は、次の点を法律上明確にしています。
- 工業製品の独創的な装飾デザインが著作権の対象となり得ること
- 工業意匠として登録可能であるか否かを問わないこと
- 実用品に組み込まれた芸術的創作物も対象となり得ること
- 手作業によるものだけでなく、工業的に量産されるものも対象となり得ること
したがって、日本でも量産される実用品が著作権によって保護される可能性はありますが、フィリピンでは、量産品に含まれる装飾的・芸術的表現を著作権で保護する法律上の根拠が、より直接的かつ明確に規定されています。
意匠登録されていないデザインの保護
意匠権を取得するためには、原則として製品を公開する前に出願し、新規性その他の登録要件を満たす必要があります。
製品の販売、Webサイトへの掲載、展示会への出品その他の公開行為が先に行われると、意匠登録上の新規性が問題となる場合があります。また、そもそも意匠出願を行わなかった場合には、登録意匠権に基づいて模倣品を排除することはできません。
これに対し、著作権では、意匠登録におけるような客観的な新規性は要求されません。
既存のデザインと類似する部分がある場合でも、他人の作品を模倣せずに独自に創作され、著作物としての創作性を備えていれば、著作権の保護対象となる可能性があります。
そのため、次のような場合にも、著作権による保護を検討できる余地があります。
- 意匠出願を行わないまま製品を公開した場合
- 公開により意匠登録上の新規性が問題となる場合
- 意匠登録を受けていない装飾、模様または図柄が模倣された場合
- 登録意匠の保護範囲に含まれない装飾的表現が複製された場合
- 意匠権の存続期間満了後も著作権の保護期間が残っている場合
- 製品全体ではなく、その一部分に含まれる創作的表現が複製された場合
もっとも、著作権に意匠法上の新規性が要求されないことは、ありふれたデザインや単純な形状まで保護されることを意味しません。
著作権による保護を受けるためには、作者自身によって独自に創作されたものであり、著作物としての創作性を備えている必要があります。
製品の一部分に含まれる表現
著作権の保護対象は、必ずしも製品全体に限られません。
例えば、次のような製品の一部分に含まれる表現であっても、それ自体が創作的な著作物と認められる場合には、著作権の保護対象となる可能性があります。
- 家具の背もたれや脚部に施された装飾
- 文具や生活用品の表面に描かれた独創的な模様
- パッケージの一部分に配置された図柄やイラスト
- 製品表面のグラフィックデザイン
- GUIを構成するアイコンや画像
- 照明器具などに施された彫刻的な造形
これは、意匠法上の「部分意匠」と同じ制度ではありません。
しかし、製品全体のデザインではなく、第三者によって複製された個別の装飾、模様、図柄、造形または画像について著作権を主張できる点で、意匠権を補完する役割を果たす場合があります。
例えば、製品全体の形状は登録意匠と異なっていても、製品表面に施された独創的な図柄がそのまま複製されている場合には、その図柄について著作権侵害を検討できる可能性があります。
文具・家具などの応用美術
フィリピンでは、家具、照明器具、文具、食器その他の実用品についても、独創的な装飾的・芸術的表現が含まれていれば、応用美術として著作権による保護を受けられる可能性があります。
具体的には、次のような要素が対象となり得ます。
- 家具に施された独創的な彫刻や装飾
- 文具や生活用品に使用された独創的な模様またはイラスト
- 照明器具の芸術的・彫刻的な造形
- 食器などに施された独創的な図柄
- 製品表面のグラフィックデザイン
- パッケージに含まれる独創的な図柄やイラスト
- 実用品に組み込まれたキャラクターや装飾的造形
一方、椅子として座るために必要な基本形状、ペンを握るために必要な形状、部品を接続する構造、製品の強度を確保するための形状など、製品の実用的機能によって決定される部分まで著作権によって独占できるわけではありません。
著作権による保護の対象となるのは、製品の機能や技術的構造そのものではなく、実用的機能とは区別して認識できる、独創的な装飾的・芸術的表現です。
フィリピン最高裁判例にみる保護の限界
フィリピン法は、応用美術や工業製品の装飾デザインを明示的に著作権の保護対象としています。
しかし、工業製品であれば当然に著作権によって保護されるわけではありません。フィリピン最高裁判所は、製品の実用的機能や技術的構造そのものを著作権によって独占することには慎重な立場を示しています。
Ching v. Salinas事件
Ching v. Salinas事件では、自動車用リーフスプリングのブッシュおよびベアリングクッションについて、著作権による保護が主張されました。
これらの部品については、著作権登録証も発行されていました。
しかし、フィリピン最高裁判所は、これらの部品は主として実用的機能を果たす工業製品であり、その実用的機能とは区別して認識できる独創的な装飾的・芸術的特徴を有していないとして、著作権による保護を否定しました。
この判例は、著作権登録証が発行されている場合であっても、対象物が実際に著作物としての要件を満たさなければ、著作権保護が当然に認められるものではないことを示しています。
また、フィリピン法が応用美術を明示的に保護しているとしても、製品の機能上必要な形状や機械的構造まで、著作権によって独占できるわけではないことも明らかにしています。
Olaño v. Lim Eng Co.事件
Olaño v. Lim Eng Co.事件では、建物に設置されるハッチドアの設計図および製品について、著作権侵害が争われました。
最高裁判所は、設計図それ自体が著作権によって保護され得ることと、その設計図に示された実用品を製造することとは区別されると判断しました。
また、問題となったハッチドアについて、ヒンジ、枠、ロックその他の特徴は、非常口としての機能を果たすための実用的要素であり、実用的機能とは区別して認識できる独立した芸術的表現ではないと判断しました。
さらに、相手方が設計図自体を複製したことを示す証拠も認められなかったことから、著作権侵害は否定されました。
この判例は、設計図に著作権が成立することと、図面に示された実用品そのものが著作権によって保護されることとは別の問題であることを示しています。
判例から分かる保護範囲
これらの判例から、フィリピンにおける応用美術の著作権保護について、次のように整理できます。
- 工業的に量産される実用品であっても、著作権の対象となり得る
- 工業意匠として登録可能であるか否かは、著作権保護の前提条件ではない
- 意匠登録を受けていない場合でも、著作権による保護を検討できる
- 製品全体だけでなく、製品の一部分に含まれる創作的表現も対象となり得る
- 製品の機能、構造、技術的特徴そのものは保護されない
- 著作権登録証があっても、著作物性が当然に確定するわけではない
- 実用的機能とは区別して認識できる装飾的・芸術的表現が必要となる
したがって、フィリピン法は日本法と比較して、工業製品や量産品に含まれる応用美術について明確な法律上の保護根拠を設けていますが、その保護は製品の装飾的・芸術的表現に限られ、機能的・技術的特徴にまで及ぶものではありません。
意匠権と著作権を併用する意義
意匠権と著作権では、権利の成立要件と侵害の判断方法が異なります。
- 意匠権: 登録されたデザインについて独占的な権利を付与する制度です。第三者が登録意匠を知らずに独自にデザインした場合でも、そのデザインが登録意匠の保護範囲に含まれれば、意匠権侵害となる可能性があります。
- 著作権: 第三者が既存の著作物に依拠し、その創作的な表現を複製または翻案したことが問題となります。そのため、第三者が同様のデザインを独自に創作した場合には、原則として著作権侵害は成立しません。
また、意匠権の取得には、出願、審査および登録が必要ですが、著作権は著作物の創作と同時に発生します。
一方、著作権の存在や権利帰属、相手方による依拠や複製を立証する必要があるため、権利行使の確実性という点では、登録意匠権の方が優れている場合があります。
したがって、製品を市場に投入する前には、まず意匠登録を検討することが基本となります。
そのうえで、製品に含まれる独創的な装飾、模様、図柄、GUI、アイコンその他の芸術的表現について、著作権登録・寄託を併用することにより、次のような場面でも補完的な保護を得られる可能性があります。
- 意匠出願を行わなかった場合
- 公開により意匠登録が困難となった場合
- 意匠登録を受けていない装飾的要素が模倣された場合
- 製品の一部分に含まれる創作的表現だけが複製された場合
- 登録意匠の保護範囲に含まれない図柄や装飾が複製された場合
- 意匠権の存続期間満了後も著作権の保護期間が残っている場合
意匠権と著作権は、いずれか一方が他方に代わる制度ではありません。
製品の外観を登録によって独占的に保護する意匠権と、製品に含まれる創作的な表現の無断複製を防止する著作権を、それぞれの特徴に応じて使い分けることが重要です。
TSUBAME IP Philippinesでは、製品、家具、文具、照明器具、食器、パッケージ、GUI、アイコンその他のデザインについて、意匠権と著作権の双方から保護可能性を検討し、対象となるデザインおよび事業内容に適した保護方法をご提案しています。
