登録要件・出願手続・審査の流れ
フィリピンで実用新案(Utility Model)の登録を受けるためには、フィリピン知的財産法(Republic Act No. 8293)及びその施行規則(Implementing Rules and Regulations:IRR)に定められた要件を満たす必要があります。
特許制度と比較すると、実用新案制度は、比較的簡易かつ迅速に権利を取得できる制度です。最大の特徴は、特許制度のような新規性及び進歩性についての本格的な実体審査(Substantive Examination)が行われないことです。そのため、製品ライフサイクルの短い技術や既存製品の改良技術について、比較的短期間で権利取得を目指すことができます。
もっとも、実体審査が行われないからといって、登録された実用新案の有効性が保証されるわけではありません。登録後に取消手続や侵害訴訟等において、新規性その他の登録要件が争われる可能性があります。そのため、出願前には十分な先行技術調査及び適切な出願戦略を検討することが重要です。
登録要件
フィリピンで実用新案として登録を受けるためには、主として次の要件を満たす必要があります。
1.新規性(Novelty)
実用新案は、新規性を有していなければなりません。
出願日前に世界のいずれかの国において公知となった技術、刊行物に記載された技術、インターネットその他の媒体を通じて公開された技術と実質的に同一である場合には、新規性を欠くものとして登録を受けることができません。
注意点:
展示会への出品、学会発表、論文、公報、カタログ、ホームページ、SNS、YouTube等による公開は、出願前には十分注意する必要があります。
※フィリピン知的財産法には一定の場合に新規性喪失の例外が認められていますが、適用には所定の要件及び期間があります。そのため、原則として公開前に出願することが望まれます。
2.産業上利用可能性(Industrial Applicability)
考案は、産業上利用することができるものでなければなりません。
工業製品のみならず、農業、水産業、食品、化学、医療機器、電気・電子、環境技術その他産業として利用可能な技術であれば、この要件を満たす可能性があります。
3.進歩性は不要
特許制度との最も大きな違いは、進歩性(Inventive Step)が登録要件ではないことです。
そのため、例えば次のような改良技術についても、実用新案として保護される可能性があります。
- 既存製品の改良
- 部品配置の変更
- 構造の簡素化
- 製造工程の改善
- コスト削減につながる技術的改良
- 作業性や耐久性を向上させる構造変更
※もっとも、進歩性が不要であっても、新規性を欠く考案については登録を受けることはできません。
登録を受けることができない考案
次のようなものは、実用新案として登録を受けることができません。
- 発見、科学理論及び数学的方法
- 単なる精神的活動の方法、ゲーム又は事業方法
- コンピュータプログラムそれ自体
- 人又は動物の治療方法及び診断方法
- 植物品種又は動物品種
- 美的創作物のみを対象とするもの
- 公の秩序又は善良の風俗に反する考案
- その他、フィリピン知的財産法により保護対象から除外されるもの
※もっとも、コンピュータプログラムを利用した装置やシステム、又は技術的特徴を有する製品については、具体的な内容によって保護対象となる可能性があります。
存続期間
フィリピンの実用新案権の存続期間は、出願日から7年間です。
特許制度とは異なり、存続期間を更新又は延長することはできません。そのため、事業計画に応じた適切な出願時期を検討することが重要です。
出願に必要な書類
一般的には、次の書類を提出します。
- 願書(Request)
- 明細書(Description)
- 実用新案登録請求の範囲(Claims)
- 図面(必要な場合)
- 要約(Abstract)
- 出願人及び考案者の情報
- 優先権証明書類(優先権を主張する場合)
- 委任状(Power of Attorney:必要な場合)
※外国企業又は外国居住者は、通常、フィリピンの知的財産代理人を通じて出願を行います。
明細書作成のポイント
実用新案では特許制度のような本格的な実体審査は原則として行われません。しかし、だからといって明細書を簡略化してよいわけではありません。
IPOPHLでは、提出書類の形式だけでなく、明細書における開示の十分性、請求項の明確性及び完全性、必要な図面の有無などについて確認が行われます。
明細書に記載すべき重要事項:
- 従来技術
- 解決しようとする課題
- 技術的特徴
- 実施形態又は実施例
- 図面の簡単な説明
- 考案を実施するための具体的な内容
重要:
請求項(Claims)は権利範囲を決定する最も重要な部分であり、侵害訴訟やライセンス契約も見据えた適切なドラフティングが求められます。
出願手続の流れ
フィリピンにおける実用新案出願は、一般的に次のような流れで進められます。
1.Step 1 出願:
出願人は、必要書類をフィリピン知的財産庁(Intellectual Property Office of the Philippines:IPOPHL)へ提出します。
出願日が認められると、出願番号が付与され、正式な実用新案出願として受理されます。
※外国企業又は外国居住者は、通常、フィリピンの知的財産代理人を通じて出願を行います。
2.Step 2 方式審査(Formality Examination):
IPOPHLでは、まず方式審査が行われます。
この審査では、特許出願におけるような新規性や進歩性についての本格的な実体審査は行われませんが、次のような事項について確認が行われます。
- 出願書類が適切に提出されているか
- 必要事項に記載漏れがないか
- 明細書の開示が十分であるか
- 請求項が明確かつ完全であるか
- 必要な図面が提出されているか
- 保護対象外の事項が含まれていないか
- 所定の手数料が納付されているか
不備がある場合には、補正又は意見書の提出を求められることがあります。
3.Step 3 公開(Publication):
方式要件を満たした出願は公開されます。
公開により、第三者は出願内容を閲覧することができ、技術内容を確認することが可能となります。
4.Step 4 第三者による不利益情報の提出(Submission of Adverse Information):
出願公開後、第三者は、当該実用新案の登録要件に関係する先行技術その他の不利益情報をIPOPHLへ提出することができます。
提出された情報は、必要に応じてIPOPHLにおいて検討されます。
※もっとも、実用新案については、特許制度のような本格的な異議申立制度又は実体審査制度は採用されていません。
5.Step 5 登録:
方式要件を満たし、所定の手続が完了すると、IPOPHLは登録証(Certificate of Registration)を発行します。
登録された実用新案は、その後、登録公報に掲載されます。
Registrability Report(登録可能性報告書)
フィリピンでは、実用新案について Registrability Report(登録可能性報告書) の作成を請求することができます。
- 概要: 出願人又は利害関係人は、所定の手数料を納付することにより、IPOPHLへRegistrability Reportの発行を請求することができます。
- 内容: Registrability Reportには、考案に関連する先行技術文献及びその関連性が示され、新規性の判断に有益な情報が提供されます。
- 留意点: Registrability Reportは、実用新案の有効性を保証するものではなく、また特許制度における実体審査報告書と同一の性質を有するものではありません。登録後に取消手続や侵害訴訟が提起された場合には、新規性その他の登録要件について改めて争われる可能性があります。
審査制度の特徴
フィリピンの実用新案制度の最大の特徴は、特許制度のような新規性及び進歩性についての本格的な実体審査が原則として行われないことです。
そのため、特許制度と比較すると、比較的短期間で権利を取得できるというメリットがあります。
一方で、登録された実用新案が常に有効であることを意味するものではありません。
登録後に取消手続又は侵害訴訟が提起された場合には、以下の事項について改めて争われる可能性があります。
- 新規性
- 産業上利用可能性
- 明細書の開示要件
- その他の登録要件
したがって、実体審査がない制度であっても、出願前に十分な先行技術調査を実施し、適切な明細書及び請求項を作成することが重要です。
優先権
日本その他のパリ条約加盟国において特許出願又は実用新案登録出願を行った場合には、最初の出願日から12か月以内にフィリピンで実用新案出願を行うことにより、パリ条約に基づく優先権を主張できる場合があります。
優先権を主張することにより、フィリピン出願についても原則として最初の出願日を基準として新規性等が判断されます。
出願前に行うべきこと
実体審査が行われない制度であっても、出願前には十分な準備を行うことが重要です。
当事務所のサポート内容:
- 技術内容のヒアリング
- 特許出願と実用新案出願の選択に関するアドバイス
- 先行技術調査
- 出願戦略の立案
- 明細書、請求項及び図面の作成
- 優先権主張に関するアドバイス
- フィリピンにおける出願手続の代理
- 登録後の権利維持及び活用に関するサポート
特に、日本で既に特許出願又は実用新案登録出願を行っている案件については、パリ条約に基づく優先権を利用してフィリピンへ展開できるケースも数多くあります。
当事務所では、お客様の技術内容、事業戦略及び将来の海外展開を踏まえ、特許制度と実用新案制度のいずれが適しているかを総合的に検討し、最適な知的財産保護戦略をご提案いたします。
